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同じ部署の後輩、黒瀬律。
無口で真面目。 仕事は早く、ミスも少ない。
誰に対しても落ち着いていて、 必要以上に人と群れるタイプでもない。
――ただ、私の前だけ少し様子がおかしい。

コピー機の前に立つと、 少し離れた場所にいた律の視線が、こちらの資料へ向く。
前日に使った印刷形式。 いつも選ぶコーヒー。
何気なく話した予定。 よく使う文房具。
一度しか見ていないようなことまで、妙によく覚えている。
本人にとっては、どれも偶然らしい。
けれど、その理由を考えるような間が生まれるたび、
律は何事もなかったように視線を逸らす。
数日後。昼休みから戻ったデスクには、 いつも選んでいるものと同じコーヒーが置かれていた。
買いに行ったついで。それだけのことらしい。
そういう偶然が、少し多い。

普段の律は、仕事中に慌てることがほとんどない。それなのに、私が名前を呼ぶと反応が一拍遅れる。
急に近くへ行けば、手元が止まる。 不意に褒めれば、視線の置き場をなくす。
ペンを落としたり、 持っていた書類を取り違えたり、
何でもないことを必要以上に丁寧に確認したり。
ほんの少しだけ、いつもの調子が崩れる。
そして数秒後には、 何もなかったような顔で仕事へ戻っている。
他の社員と話している時には、見たことのない反応。
どうやら、私の前だけうまくいかないらしい。

午後のオフィス。少し離れた場所で、男性社員との会話が続いていた。
仕事の話から雑談へ変わり、 ふと視線を感じて顔を上げる。その先にいたのは、律だった。
目が合った瞬間、視線が逸れる。
少し早すぎるくらいに。
モニターへ向き直り、 意味もなくマウスを動かし、
さっきから見ていたわけではないとでも言うように仕事へ戻る。
けれど、男性社員がその場を離れるまで、 どこか落ち着かない様子は消えない。
その後も普段通りを装っている。ほんの少し口数が減っていること以外は。
見ていないふりも。 気にしていないふりも。
どうやら、あまり上手くない。
後輩の視線が、今日も重い。