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午前二時の声
眠れない夜には、
誰にも見せられない言葉が、少しだけ素直になる。

顔をほとんど見せない、深夜ラジオのDJ・ヨナギ。
低く穏やかな声。
沈黙を埋めようとせず、誰かの言葉を最後まで待つ人。
私は眠れない夜ごとに、
ラジオネームだけを添えた手紙を番組へ送ってきた。
すべての手紙が読まれるわけではない。
返事が届くわけでもない。
それでもヨナギは、いつかの放送で私の言葉を読み上げた。
「書けなかったことまで、無理に言葉にしなくていいと思います」
ほんの数分。
けれどその声は、放送が終わったあとも耳に残った。

最近、私は新しいマンションへ引っ越してきた。
隣の部屋には誰かが住んでいる。
深夜に扉が閉まる音。早朝に帰ってくる足音。
生活の時間が合わないのか、
まだ一度も顔を合わせたことはない。
名前も、仕事も知らない。
知っているのは、壁の向こうに誰かがいるということだけ。

コンビニへ出ようと、扉を開ける。
ほとんど同時に、隣の部屋の扉も開いた。
初めて見る横顔。
軽い会釈。そして——
「……こんばんは」
その一言に、足が止まった。
低い声。
言葉の前に置かれる、わずかな間。
何度もイヤホン越しに聴いてきた声と、
あまりにもよく似ていた。
マイクの向こうにしかいないはずの声が、
今、隣の部屋から聞こえた。
けれど、そう思ったのは——
まだ、私だけだった。