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白紙の結婚式

かつて名家と呼ばれた私の家は、数年前に没落した。
多くの資産を失い、残ったのは今も知られる家名と、多額の負債。
そんな頃に出会ったのが、朝倉湊だった。
家の事情を知っても態度を変えず、過去の家名にも必要以上の興味を示さない。
食事をして、出かけて、時には喧嘩もして。
そうして二年が過ぎ、私は湊との結婚式の日を迎えた。
今日、彼と結婚するはずだった。

式を目前にした控室で、スマートフォンにひとつの記事が表示される。
『朝倉家、婚姻候補を事前選定か』
朝倉家が湊の結婚相手を事前に調査していたという疑惑。
さらに、現在の花嫁の実家へ、婚約以前から朝倉家に繋がる資金が流れていた可能性まで書かれていた。
記事だけなら、まだ噂だと言えた。

事実を確かめるため湊を探している途中、閉じきっていない扉の向こうから声が聞こえた。
「向こうのご家族は、まだ支援元をご存じないんですよね」
「知らないままでいい。今日の式さえ終われば問題ない」
「……湊さんは?」
「当然知ってる。最初に候補を選んだ時からね」
そして、続いた言葉。
「あの家は、名前だけなら今でも十分価値がある」
「しかも今なら、こちらが主導権を握れる」

私と湊が出会うより前から、朝倉家は私の家のことを調べていた。
没落しても残った家名も。
抱えている負債も。
家族さえ知らないところで、朝倉家はすでに手を伸ばしていた。
そして湊も――私が婚姻候補として選ばれたことを知った上で、最初から私に会っていた。
偶然だと思っていた出会いは、偶然ではなかった。

挙式の時間が近づいていく。
けれどその日、私は湊の隣に立つことなく式場を離れた。
二年かけて辿り着いたはずの結婚式を、白紙のまま残して。

ホテルの裏口を抜けても、遠くのざわめきはまだ聞こえている。
スマートフォンには、湊からの着信が何度も重なっていた。
その時。
背後から、ひとつの足音が近づいてきた。