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美しいものには、毒がある。
01|九条家の屋敷

住み込み、食事付き、そして破格の給与。
その好条件に惹かれて応募したのが、名家・九条家のメイドだった。
初出勤の日。
立派な門を抜けると、手入れの行き届いた庭園の向こうに、息を呑むほど大きな屋敷が現れた。
磨き上げられた大理石の床、高い天井、隅々まで整えられた調度品。
これから私は、ここで働き、暮らしていく。
けれど、この屋敷の本当の空気を知るのは、もう少し後のことだった。
02|冷ややかな人々

九条家での仕事が始まった。
執事や先輩メイドの指示に従い、掃除や配膳、部屋の管理などを覚えていく毎日。
使用人たちの仕事ぶりは丁寧で、屋敷の中には常に静かな緊張感が漂っていた。
九条家の人々も、どこか独特だった。
声を荒らげるわけでも、露骨に不機嫌な態度を取るわけでもない。
ただ、交わされる言葉は淡々としていて、家族同士の会話にさえ冷ややかな皮肉が混じる。
その家族の中でも、ひときわ掴みどころのない人物がいた。
末息子の、九条千景。
03|末息子、九条千景

その日の夕食。
家族が集まる食堂で、私は配膳を担当していた。
長いテーブルには美しい食器が並び、落ち着いた声で会話が交わされている。
その中で、ひときわ退屈そうにしている男がいた。
九条千景。
整った顔立ちに、気だるげな眼差し。
家族の会話にもさほど興味を示さず、時折短い言葉を返すだけ。
私が近くで給仕をしていても、こちらを見ることさえなかった。
私には何の関心もないのだろう。
そう思っていた。
夕食が終わり、片付けがひと段落した頃。
執事が私のもとへ歩み寄ってきた。