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あの日、怒りの行き先を間違えた。

普段から鬱陶しい会社の部長が、今日は輪をかけて最悪だった。
ようやく残業を終えたというのに、怒りはちっとも収まらない。
帰り道。あの顔を思い出すたび、また腹が立つ。
――あのクソ部長。

ふと、古びた雑居ビルの入口に目が留まった。
「伏見調査事務所」
各種調査・ご相談。
――あいつ、誰か一度くらい懲らしめてくれないかな。
冷静だったら通り過ぎていたはずだ。
けれど、その夜は腹が立って仕方がなかった。
気づけば、3階へ続く階段を上がっていた。

扉の向こうには、古い机と書類の山。かすかに残る煙草の匂い。
その奥にいたのは、気だるげな目をした無愛想な男だった。
伏見 宗司(ふしみ そうじ)。
普通の興信所の所長に見えるその男が、裏社会の厄介事まで請け負う人物だなんて、知る由もない。
そして、そんな男のもとに持ち込もうとしているのは――
会社の部長を、懲らしめたい。
ただ、それだけの依頼だった。
こんな男が相手だなんて、思いもしなかった。